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脳性まひ

脳性まひについて


 
脳性麻痺(のうせいまひ)というのは、妊娠中から乳児期に、何らかの原因で脳が損傷を受け、体を動かす機能が障害された疾患になります。同じ運動麻痺の病気でも、筋ジストロフィーなどの進行性の筋肉の病気や、二分脊椎症などの脊髄の病気は脳性麻痺とは言いません。脳性麻痺はポリオ(小児麻痺)という脊髄の感染症から生じる麻痺と区別して、「脳性小児麻痺」とも言われます。脳性麻痺の定義にはいわゆる「知的障害」は含みません。脳の障害であるため、知的障害を合併していることもありますが、知的障害を伴わない脳性麻痺児もたくさんいます。脳性麻痺の原因としては、妊娠出産時の低酸素脳症が指摘されていますが、その割合は15%程度といわれています。低酸素脳症というのは出産時に何らかの原因で、赤ちゃんの脳に酸素が十分に供給されなかった場合に起こりますが、これだけが脳性麻痺の原因であるかのように誤解されている点があると思います。難産であったり、赤ちゃんの体重がとても軽かったりすることが、脳性麻痺の発生と関連があるようですが、全く問題ない出産でも、脳性麻痺になることも少なくありません。 脳性麻痺、と一口に言っても、いろいろな症状があります。風邪には、いろいろなウイルスが病原体として関与しているのと同じように、脳性麻痺でもいろいろな原因によると思われる多様な症状が見られます。 麻痺の形で多いものが、「痙性麻痺(けいせいまひ)」と呼ばれるものです。これは、麻痺した手足が硬直した(いわゆる突っ張った)麻痺です。脳梗塞や脳出血などの脳卒中のあと、数ヶ月してから現れる症状と基本的には同じですが、脳卒中の場合は片方の手足が悪くなるのに対して、脳性麻痺では両手足に麻痺が出現しています。固くなってくるのも、数ヶ月ではなく、数年単位です。生まれてすぐには診断できないことも少なくありません。麻痺の子供は、通常は3-4歳になって突っ張りが強くなることが多いようです。体重が少ない、何となく元気がない、比較的柔らかい、などの印象がある場合もありますが、生まれてすぐに固い麻痺がある訳ではありません。なかなか首が据わらない、オスワリができない、寝返りができないなどで診断されることもあります。
残念ながら現在の医学の力ではまだ脳自体の障害は治療ができないので、障害となっている手足の部分での問題を軽くする取り組みが行われています。どのような麻痺であっても、赤ちゃんの頃からの早期の運動訓練が大切です。そのような脳性麻痺児の早期訓練としては、全国の肢体不自由児施設や、通園施設が重要な役割を果たしてきました。麻痺そのものは治せないのですが、早期訓練を行うことで、日常生活で必要な能力を向上できるようになりました。当センターではリハビリテーション科でストレッチングや動作訓練を早期訓練として行います。さらには、成長に応じて補装具や坐位保持装置の作製などを行っていきます。
 
先ほども述べましたが、脳性麻痺の運動障害は、筋肉が過度に緊張して体を動かしにくい(痙縮)、手足を曲げる筋肉も伸ばす筋肉も両方とも緊張するため、曲げ伸ばしすることが難しい、自分の意志に反して身体が勝手に動く(不随意運動)、バランスが上手く保てないなどの特徴があります。さらには、重力に逆らって体を持ち上げる力が弱いために、首が座らない、寝返り、四つ這いができない、立ち上がれない、上手く歩けないなどの症状がみられます。
2-3歳頃までは、体を持ち上げる力が弱さや、バランス、姿勢を上手く保てないことなどが主な症状であるため、寝返り・四つ這い・座位、膝立ち・歩行などの基本的な運動、姿勢の維持の練習を行い、運動発達を促していきます。
しかしながら4-5歳頃になると、加えて筋肉の緊張も明らかなり、運動発達がなかなか進まなくなってきます。さらには10歳を過ぎてくると、身長や体重の増加、四肢の変形、固さの出現により、今までできていた動きや日常生活動作が難しくなってきます。
この四肢体幹筋の過度な緊張の持続、不随意運動などは運動発達の停滞、四肢の変形、固さ、股関節脱臼、脱臼に伴う痛み、脊椎側弯症、座位バランスの悪化、心肺機能の低下、つま先立ち、つま先歩きなどの起立歩行困難、頚髄症などを引き起こし、日常生活に多くの困難、苦痛を引き起こします。
以前は、なかなか治らない疾患、課題ではありましたが、先人の治療の積み重ね、臨床経験の中から、このような障害についても少しずつ治療、改善ができるようになってきています。
整形外科では、手術などにより頸部、肩、肘、手首、手指から股関節、膝、足に至る全身の関節の緊張した筋肉を全般的に緩め、関節のスムーズな動きを引き出し、運動機能、移動能力の向上、脱臼、痛みの予防、改善、さらには起きてしまった変形、脱臼、痛みの治療を行っていきます。
 
お子さんの年齢や変形、重症度、筋緊張、脱臼の程度、運動機能に応じて、ボツリヌス療法(ボトックス注射)、整形外科的選択的痙性コントロール手術などの筋解離手術、ITB療法(バクロフェン髄注療法)、股関節脱臼の脱臼整復術、骨盤や大腿骨の骨切り手術、下腿の回旋骨切り術、足部骨切り手術、関節拘縮解離手術などを組み合わせて行います。
「整形外科的選択的痙性コントロール手術(OSSCS)」は、緊張している筋肉を選んで緩める筋解離術で、40年前ほどに松尾隆先生(現福岡県こども療育センター新光園 前園長)が考案した方法です。
脳性麻痺においては、筋肉の過剰な緊張があり、体を支える力が弱い状態と述べましたが、この手術の特徴は、体の支持性を残したまま、筋の過剰な緊張のみを軽減し、運動、移動機能向上、四肢の変形改善、脱臼予防ができるという点にあります。
ヒトの体の筋肉は、大きく分けると、二つの関節にまたがって関節を動かす多関節筋と、一つの関節だけを動かす単関節筋に分けられ、多関節筋は水平面で体を前方に推進するときに働き、単関節筋は重力に逆らって体を持ち上げ、支えるときに働くと考えられています。
脳性麻痺では主に多関節筋が過度に緊張していると考えられ、多関節筋の筋腱だけを選択的に延長、切離することにより、体幹の支持性を残したまま、安定性を損なわず治療することができます。
具体的な手術の目的としては、寝返り、四つ這いなど自力での床上移動ができるように、上手く座れるように、つかまり立ち、伝い歩きができるように、歩行器、杖歩行ができるように、支えなく自力で歩行ができるように、車いすを上手にこげるように、顔を上手く洗えるように、手を使って体を支えられるようになど色々な運動レベルに合わせた運動機能、日常生活動作の向上を目的とした手術、また、内また歩行、お尻の出っ張り、つま先立ち、つま先歩行などに対する起立、歩行の安定、歩容、姿勢の改善を目的とする手術もあります。
さらには、頸部、体幹の反る緊張、変形、肩の引き込み、つっぱり、肘手首の曲がり、手のひらが上を向かない変形、母指の曲がり、内側を向く変形、ハクチョウの首のような指の変形、手の指が上手に動かせない、下肢のクロス変形、膝の曲がり、股関節脱臼、アテトーゼ頚髄症によるしびれ、運動障害なども 、同様に筋緊張を緩める手術により症状、変形を軽減することができるようになっています。
重度の脳性麻痺で全身の緊張が非常に強い場合は、運動機能、日常生活動作の向上には直接つながりませんが、股関節・上肢・頸部、体幹の筋解離手術を数回に分けて行い、全身の筋緊張を和らげていきます。強い筋緊張から解放され、座位をとりやすく、食事を食べやすく、夜間も良く眠ることができるようになります。さらには声が大きく出たり、よだれが減ったりする効果も期待されます。起こってしまった股関節脱臼は、高度な脱臼になると、痛みを生じることも多く、体動困難、不眠の症状、褥瘡の発生などが問題になります。さらには、痛みによる筋緊張の増強、その筋緊張が更なる痛みを引き起こす悪循環に陥ってしまいます。このような状況に対しては、股関節周囲の筋解離術、脱臼整復術、大腿骨骨切り術、骨盤骨切り術を用いて脱臼の整復固定、痛みの軽減を図ります。また、軽度の側彎症に対しては筋解離術による進行の予防もできるのではないかと考えています。
 
諦めないでください。過度な筋緊張、痛みなどによって苦しんでいるこども達がたくさんいます。彼らには筋緊張により抑制された潜在的な能力があると考えています。筋緊張を緩和し、その能力を最大限に引きだし、自らの力で体を動かし移動できる可能性も広がってきます。豊かな日常生活を送ることができるきっかけになることを期待しています。現状では脳性麻痺の疾患自体は治りませんが、まだまだ治療によって改善できる余地は多く残されていると思います。気軽にご相談ください。

 

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